ゴキブリ駆除用ホウ酸毒餌について


1毒餌成分と作用
  本市で指導しているホウ酸毒餌の成分と1世帯あたりの配合割合は次のとおりである。
     〇ホ ウ 酸   4g(水を除き20%)
〇米 ぬ か 14g
  〇グリセリン  2g
  〇  水   適当量
(1) ホウ酸の作用
  ゴキブリに対する作用機序についてはよくわかっていないが、脱水症状を起こすとも、消化管が壊  死を起こし、下痢のような症状を起こして死んでゆくとも言われている。いずれにしても、食毒とし  て作用していると考えられる。
(2) 米ぬか
  毒餌の基材になる。米ぬかはゴキブリが特に好むもので、実験により、ゴキブリは米ぬかからの@  n−ヘキサンに可溶で臭覚的な誘引物質として作用する揮発性物質、Aメタノ一ル又は水可溶性の摂  食行動誘起物質、Bn−ヘキサン可溶の摂食行動誘起物質、C味覚的な接触行動誘起物質として働く  類と関連物質に反応している。
(3)グリセリン
  毒餌を長期間軟らかくし、喫食しやすくするとともに、各種糖類のなかでゴキブリに対する摂食行  動誘起物質として最も効果がある。
2 駆除効果
  林晃史氏によると@ホウ酸は遅効性であるが、ゴキブリ類に対して殺虫効果がある、A実験室内で  のホウ酸製剤 (15%) の基礎効力試験では、効力の発現は3日以降で、100%致死するのにほぼ  30日を要した、B実地試験においても効力の発現するのは処理後4日目以降からで、7日後の駆除  率は55%、最も駆除効果の高かったのは処理後45日目、Cホウ酸製剤の効果は設置場所や方法に  大きく左右されると述べている。   森八郎氏はワモンゴキブリを使った試験で、遅効性であるが食毒効果を十分に認めた。 また、毒  餌の他に水や食物を給与すると、致死する個体が極めて少ないので、実際のゴキブリ駆除を行う場合  は、他に食物を残さないことが必要であると述べている。     本市の保健所が行った駆除効果調査では、良好な成績が得られなかった報告もあるが、生活衛生セ  ンターがチャバネゴキブリを使って、20%毒餌処理して行った試験は、室内試験で、4〜8日目こ  ろから急速にゴキブリが死亡しはじめ、7〜18日目ですべ て死亡した。また、飲食店での実地試  験では10g/u以上の処理量で、処理後3週間〜4週間でゴキブリの捕獲率はほぼ0に近くなった  が、1.5g/uの処理量では効果が劣った。さらに、千種保健所が行った一般家庭での調査では、  駆除効果は処理後1〜 2週間ぐらい、おそくとも3週間後には認められることがわかった。      効力の持続性については、具体的データはないが、現場において5月に毒餌を配置した結果、8月  末にはゴキブリが見られるようになったことが経験されている。
3 安全性
 (1)経口中毒
   ホウ酸毒餌による中毒は、大部分が誤食によるものと考えられる。文献によると、ホウ酸の人に  対する経口致死量は成人で5〜10gくらい、小児で5gとされている。
   また、成人で約  20gで死亡した例がある。さらに、外国の文献では経口LDLo (最小致死量)は、成人640  mg/kg、乳児200mg/kgとしている。本市では、ホウ酸含量20%の毒餌を、1世帯あたり20g、  これを10個程 度に分けて配置するよう指導 している。すなわち、1世帯あたり4g、1個あたり  約0.4gのホウ酸を含有するこ とになる。従って、1世帯分の毒餌を小児が全部食べたとしても  致死量には達しない。   また、乳児が配置してある毒餌を1個食べたとしても致死貴には達しないが、1世帯 分すべて食  べてしまえば、十分致死量に達する可能性がある。以上のことから、本市で 指導しているホウ酸毒  餌は、安全性は比較的高いと考えて良いが、それでも誤食には十 分な配慮が必要である。例えば、  毒餌を冷蔵庫等に保存るなどは食品と間違えやすいので慎むべきであるし、特に乳幼児のいる家庭で  は、毒餌の配置場所にも十分な配慮が必要である。さらに、残ったホウ酸粉末は食品や家庭薬と間違  えて使用されることがないよう、保管場所に注意する必要がある。
 なお、ラットに対する経口致死量LD50は3.Og/kgであることからも、ペットにも注意を要する。
 (2)中毒症状
  粘膜から吸収された場合も、経口中毒の場合も、悪心・嘔吐・下痢で始まる。特徴的なのは皮膚症  状で、しょう紅熱に似た発疹が現れ、3〜5日目に表皮が剥離する。中枢 作用として頭痛・不安・  せん妄・脱力倦怠感が見られる。しばし1 八腎不全・けいれん ・代謝性アシドーシスが見られる。  便は青緑色になる。死因は脱水による循環不全・シ ョック・尿細管壊死によるもので、死亡は発症  後5日目くらいである。拮抗藁や特別の 治療法はない。一般的な初期治療を行う。 4 薬事法上の問題
  薬事法第2条第2項において、人又は動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみ等の駆除又  は防止を目的とされており、かつ人体に対する作用が緩和な物であって、 厚生大臣の指定するもの  は医薬部外品として、これらを製造、小分けをする場合は、同 法第12条に基づき、製造業の許可  を受ける必要がある。本市の場合は、自家性毒餌として、ゴキブリ駆除のーつの方法として指導して  おり、特にこの法に抵触するとは考えられない。しかし、例えば地区の役員が毒餌を大量に作り、町  に配布する場合はこの法律に抵触する恐れもあるので、指導にあたってはこの点を十分考慮する必要  がある。
5 厚生省の考え方
  厚生省によるゴキブリ駆除法等の指針としては、「伝染病予防法に基づくねずみ・衛生害虫駆除薬  品使用マニュアル」および「ねずみ・衛生害虫等駆除指導指針」がある。 前者は、市町村において  ねずみ・衛生害虫の駆除を行う場合の基準となるものであり、 市町村が使用するのに適した防疫用  薬剤を中心とした基準であるため、ホウ酸毒餌につ いては記載されていない。後者は地方自治体に  おいて、住民に対する指導を行う場合の 指針となるものであり、ゴキブリ類の殺虫剤による駆除法  として、残留処理・くん煙・ 毒餌について解説している。毒餌については、効果があるが遅効的で  あるとの評価をし ている。 6 研究者の考え方
 ホウ酸毒餌に関する研究・解説はあまり多くない。千葉県衛生研究所の林は、毒餌剤の限界として、  受け身の駆除法でありゴキブリが餌に反応しないかぎり効力は発現しないため、他の方法との併用が  好ましく、それによってホウ酸製剤の力価が発揮されると述べている。   そして、家庭用殺虫剤としてはそれなりの効果を発揮するが、防疫剤領域での展開を考える場合は  さらに製剤の研究が必要であろうとの見解を示している。また、同氏は別の論文で、ULVやドライ  処理を行った施設に対して、完全駆除を行うためには「置き去り法」によらねばならないと述べてい  る。   そして、今後最も必要とされている技術は、環境中に可能なかぎり異物を放出しない害虫管理技術  であり、置き去り法はこうした要求に応えるものであると述べている。 7 市民の感想
  ホウ酸毒餌としては岐阜県池田町のものが有名であり、週刊誌等でしばしば紹介されるため、市民  の間にもホウ酸毒餌に対する関心は高い。本市のゴキブリ駆除運動でも独自のホウ酸毒餌作りの講習  会を実施している。   講習会を希望する地区や団体が多いことから、一般家庭にとっては比較的安価で、手軽に作れて、  しかも残留塗布に比べて毒物という感覚も少ないことから、毒餌による駆除を好むと考えられる。   しかし、この手軽さが逆に誤食等の事故を起こす原因にもなる。   厚生省の家庭用品に係わる健康被害病院モニタ−報告(平成8年度)によれば、ゴギブリ駆除用の  ホウ酸ダンゴを食べた事例も多く報告されている。自家製のホウ酸ダンゴは食品と間違えやすい事か  ら、使用にあたっては、子供の目につかない場所や手の届かない場所に置くなどの配慮が必要である。   従って、ホウ酸毒餌によるゴキブリ駆除を行う場合はより慎重な取扱いが望まれる。 8指導上の留意点
 (1) ホウ酸毒餌作りを含め、ゴキブリ駆除指導を行う場合は、ゴキブリの生態等について市民の理解  を深めること。
 (2) ホウ酸毒餌は、残留塗布・くん煙を含めた薬剤による駆除方法のひとつとして、市民に対しては、  それぞれの特徽・長所・短所を理解させたうえで、長所を生かした使用法を指導すること。
 (3) ホウ酸毒餌の指導にあたっては、安全に十分配慮すること。
  ア 自家製毒餌として、自分で作って自分で使うことを原則とする。
  イ 地域いっせい駆除のために、地区組織で毒餌作りを実施する場合は、事故防止について徹底き    れるように配慮する。
  ウ 毒餌を配置するときは子供の手の届かない場所や、毒餌であることが良くわかる容器に入れる 等の工夫をする。
  エ 残った毒餌は速やかに廃棄し、冷蔵庫等に保管しないようにする。
  オ ホウ酸の配合割合を守る。
  力 毒餌を作る際、ホウ酸が目や口に入ったり、吸い込んだりしないよう、マスクやビニール手袋 等により体を保護する。また、食品等に混ざったり、周囲に飛び散らないよう注意するとともに、 作った後、手をよく洗う。
  キ 残ったホウ酸粉末は、食品や家庭薬等と紛らわしい容器には入れない。
容器にはラベルを張るなど、ホウ酸であることが判るようにし、食品や家庭薬等と一緒には保管 しない。
                      (名古屋市衛生局環境食品課資料より)


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