疥癬のお話

 疥癬はダニの一種であるヒゼンダニ(カイセン虫) が人間の皮膚に張り付いて生じる、かゆみを伴う皮膚疾患です。

ヒゼンダニは、ご覧のようになかなかユニークでかわいらしい形をしたダニですが、これがかなりの難物です。ヒト専門の寄生虫で、ヒトの皮膚にひっつくと最外層の角層にもぐり込み (そのもぐり込んでいる横穴は線状の皮疹となりカイセントンネルといいます)。そこで産卵をはじめます。l日に2〜3個、30日以上も産卵を続けます。卵は3〜4日で孵化し、幼虫、若虫を経て、2週間ほどで成虫となり、交尾後また産卵をはじめます。このサイクルが順調にはこぶと、2ケ月後にはなんと100 万匹にも達する計算となります。
   しかし、幸いなことに現実はこんなふうにはなりません。いろいろな要因が関与してダニが死んで行くからです。ですから疥癬患者でもヒゼンダニの数は身体全体で1000匹以内であるのが「普通の疥癬」です。

     ところが、この「普通の疥癬」を大きく逸脱して100 〜200万ものダニが1人の患者に寄生することがあります。 「ノルウェー疥癬」とよばれるこの症状は、通常の疥癬と原因は同じヒゼンダニですが、寄生されたヒトの側の理由(たとえば、加齢や病気が原国で免疫力が低下している場合など)によって発症します。皮膚に灰白色のカキ殻のような厚い角質増殖がおこり、触るとポロポロと剥げ落ちます。もちろんその内側には大量のダニが付着しているわけです。

 相手がダニであるので、この病気はヒトからヒトへと、直接、間接の接触によって感染します。通常の疥癬の場合、ダニ数が少ないので感染力はたいしたこどはありませんが、ノルウェー疥癬では100 万ものダニが1人のヒトに付いているわけですから感染力は極めて強く、十分な注意が必要です。特に病院や老人養護施設などで患者が発生した場合、集団発生につながることも心配されます。

 このヒゼンダニ、ヒトから離れて生活することはできず、他の多くのダニと同様、乾燥と低温、 高温には極めて弱いのです。また、日本の衛生状態から考えて、そんじょそこらにウヨウヨいるという代物ではありません。しかし30年程の周期で流行するともいわれています。以外と我々の身近にひそんでいるかもしれません。

 感染すると治癒までかなりの時間を要します。こんな感染症もあるんだと、みなさんも記憶しておいていただきたいと思います.

 ムーシアムだより・2001年4月号(名古屋市生活衛生センター)より 


追加コメント(ノルウェーカイセンの場合

 ノルウェーカイセンの場合は、集団感染源となるので患者を隔離する必要があり、着衣やシーツ、寝具等は熱処理が必要となる。一方、普通のカイセンの場合は濃厚な接触のみで感染するので、患者の隔離は必要もなく、熱処理も必要ない。
 カイセンと診断されたときの処置は、普通のカイセンとノルウェーカイセンとを区別して考える必要がある。
 治療は、クロタミトン(オイラックス)かγ−BHCがある。クロタミトンは治療薬としては不十分であるが、予防的治療薬としては効果がある。γ−BHCは非常に効果があるが、一般に国内で製造、販売が禁止されている。医師の責任の基で「試薬」として入手し、塗布する。治療にあたっては、ヒゼンダニが皮表のどこにいるか特定できないので全身に塗ることである。これを怠るとカイセンが再燃する

○注意すること

 @患者を個室に隔離し、使っていたベッドに虫体がついている可能性があるので、ベッドごと移動する。
A人体から離れた虫体は2週間ですべて死滅するので、隔離後使用していた部屋は立ち入り禁止する。不可能な場合は使用していたものは熱処理を行うか、ペルメトリンを含有する殺虫剤で処理を行う。
B着衣やシーツ、寝具等も熱処理を行う。この時、落屑を飛び散らさないように細心の注意が必要である。
C接触者の追跡調査を行い、感染の危険性があることを説明し、場合によっては予防治療を勧奨する。
D介助者も二次感染の媒介にならないよう、「1ケア1消毒」に心がける。

 消毒は・・流水と石けんによる手荒いの励行がベスト。不可能な場合は手精綿(脱脂綿にアルコールを含んだもの)やアルコールスプレーもヒゼンダニから急速に水分を奪うので効果的である。

「ダニ特集」で、ヒゼンダニの駆除法を紹介しています。
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