Biography

ビッグ・バンド・ジャズの名門、カウント・ベイシー楽団は結成以来約半世紀以上の歴史を持つが、たった一度だけビッグ・バンドを解散し、スモール・コンボに縮小した事があった。それは1950年から2年間だけであったが、’52年初頭にメンバーを一新してビッグ・バンドを再編した時はモダンな感覚を注入していた。この時期を境にして、’30年代半ばから’40年代末までをOld Basie Band、そして’52年以降のベイシー楽団をNew Basie Bandと呼んでいる。
オールド・ベイシー・バンドには数々の有名なレパートリーがあったが、中でも『One O'Clock Jump』と『Jumpin' At The Woodside』はこのバンドの目玉となるヒット・ナンバーであり、ニュー・ベイシー・バンドになってからも無くてはならぬレパートリーであった。

それに対して、ニュー・ベイシー・バンドは発足してからしばらくの間、これらの当たり曲に匹敵する極め付きのレパートリーはなかなか生まれなかった。’52年後半以降、ニュー・ベイシー・バンドは50年代を通じてしばしばニューヨークのクラブ”バードランド”に出演するようになったが、ある晩ベイシーはオルガン奏者として有名なウィリアム・”ワイルド・ビル”デイヴィスの新編曲による『April In Paris』を演奏した。この曲は1932年12月から119回にわたって上演されたミュージカル”Walk a Little Taster”に挿入された古い曲で、ヴァーノン・デュークの最大傑作とうたわれた名曲だが、この美しいメロディを”ワイルド・ビル”デイヴィスのアレンジはちょっとしたソロ・パートを間に入れるだけで、後は流麗でダイナミックなベイシー楽団のアンサンブル・ワークを最大限に発揮しうる見事な手法を取った。特にデイヴィスが編曲した素晴らしいメロディからエンディングに入っていく部分の効果は人を引き付けずにはおかなかった。聴衆の反応がそれを十分物語っていた。それだけにベイシーはこの聴衆の反応に答えるべく、エンディング部分をコーダ風に繰り返して演奏するのが自然であるととっさに判断し、バンドに向かって、「One More Time」と叫んだのだった。その時にニュー・ベイシー・バンドの最初の十八番が誕生した。聴衆の熱狂ぶりは前にも増した。そしてベイシーは繰り返したのである。「Let's Try One More−Once」

1960年代後半、ルーレットやリブリーズに多くの傑作LPを残したあと、ベイシーは、一時いろいろな小レーベルに、唄伴や、ミュージカル曲、ビートルズ・ナンバーやコンテンポラリー・ヒットなど、本来のベイシーのオリジナル・ジャズからはやや外れた感のあるレパートリーを吹き込んだ。勿論ドットに残したミルス・ブラザースやケイ・スターとの共演、又ビートルズ・ナンバーでも、ミュージカル曲でも、ベイシーなりの優れた編曲と演奏で貫かれていたわけではあるが、昔からのベイシー・ファンにとっては、やはりベイシーらしいリフやジャンプのジャズ感に満ちたオリジナル曲を待望する気持ちが強かった。そうゆう際に、サミー・ネスティコと言う新しい名前のアレンジャーのオリジナル作品ばかりを引っさげて登場した『Straight− Ahead』は心有るベイシー・ファンからの願望に答えた形で絶賛されたのであった。と同時に、今までブラス・バンドや米軍バンド関係者の間では高い評価を受けながら、一般ジャズ界ではあまり知られていなかったサミー・ネスティコと言うビッグ・バンド・アレンジャーの優れた才能を世に出す機縁にもなった。
ベイシーは引き続き、ネスティコに多くのスコアを依頼して、1970年代のベイシーのレパートリーの重要部分を占める事になったのである。

その後ベイシー楽団はドイツのMPSレーベルでエヴァーグリーンの歌曲を全くのベイシー・スウィングで演奏した快適なコレクションである『Basic Basie』や『High Voltage』などいくつかの傑作アルバムを吹き込み、’80年代には古巣のノーマン・グランツのパブロ・レーベルにカムバックし活躍していたが、バンドのパーソネルから言っても、演奏スタイルから言っても、常に『Straight Ahead』の延長線上にあると言っても過言ではないだろう。

ベイシーが一度ピアノのキューを送って、あのリフを演奏し始めると、聴衆が一斉にダンスを踊り始めたと言われる。知らず知らずの間に人々を、ダンス・フロアに駆り立てるベイシー・サウンドに、他のいかなるバンドも真似の出来ない年輪の強さを感じさせられる。
カンサス・リフとベイシー・リズムを基底にしたサウンドが、半世紀以上全く衰えを知らず、生き生きと清新さを増している。永遠のビッグ・バンド・サウンドがそこにあるのだ。

<大和 明・瀬川 昌久>

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